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02
単調化する日本の川

更新日:2020年9月25日

河川地形単調化の経緯

川の相談を受けていると、地元の年配の方から「昔の淵はもっと深くて・・・」とか、「昔の瀬は大きくて流れも急で・・・」といった話をよく聞きます。測量データや空中写真などの資料を集めて、昔と今の川の地形を見比べてみると、そうした川の多くでは、地元の方の証言を裏付ける変化をしていました。それは、「地形が単調化している」ということです。
地形の単調化とひとくちに言っても、原因は場所により様々で複雑です。ここでは少し、時代背景を書きたいと思います。
日本では、戦後の経済成長とともに各地で土地の形や景観が大きく変わりました。その変化のなかで、川では国民の生命・財産を守る「治水」と経済発展と生活・農業等に必要な「利水」が優先され、平成2年の多自然型川づくりの通達が出されるまで、生き物が生育・生息するために必要な空間を保全するという「環境」の視点はほとんどありませんでした。多くの川では、蛇行していた流路が直線化され、川岸はコンクリート護岸で固められていきました。
こうした川への人為的な作用は、複雑で多様だった川の地形を単調なものへと変化させていきました。ただし、変化のスピードは様々で、河川環境を急激に変化させるものもあれば、ジワリジワリと長い年月をかけて影響を与えてくるものもあります。

河川地形の単調化(イメージ)

単調化による影響

では、地形が単調化するとどういった影響があるのでしょうか。
治水面で考えると、洪水を効率よく流下させることになるので良いのではと思われる方もいるかもしれません。しかし、現在、全国の多くの河川で問題になっている河床低下、樹林化、みお筋の固定化などの現象は、川の地形がある方向に偏った(=単調化した)結果であり、そのことが河積*の減少や、河川構造物(護岸・堤防など)の不安定化を招いています。

川の単調化は、環境面からも好ましくありません。川岸や川底の地形が単調化するということは、その場所の水深、流れの緩急、川底の石の大きさなども含めた物理環境全体も単調化することになるからです。
川の生き物にとって、川の物理環境はいわば生活環境です。物理環境が複雑・多様な川では、その上に成立する生き物の世界(=川の生態系)も豊かになりますが、物理環境が単調化すると、その環境に対応できる限られた生き物しかいなくなります。

*河積:河道内の洪水が流下する断面積

「多様な物理環境」を取り戻す

現在、日本の川づくりの現場では、陸上の話ばかりで、水際~水中のことについては議論されることが少ないのが実情です。「水際~水中の物理環境は、出水で変化するものなので、そこは川の営力に任せる」との考えから、思考を止めてしまっている河川管理者も多いように感じます。
しかし、川の状況をよく観察すると、既に物理環境が単調化した川のなかには、自然の力だけでは回復できないケースが多くあります。
そうした川では、水際~水中にもしっかりと目を向けて、川が自らの営力で「多様な物理環境」を取り戻せるところまで、人が手助けをする必要があるのです。

アユカケ

アユカケ:瀬の礫底を好む。瀬・淵の消失や横断構造物による遡上阻害などにより、近年、全国的に個体数が減少している